●カタユウレイボヤの飼育


基本的な飼育方法暫定版;現在のシステムとは、かなり異なっています)

 以下にあげる方法で、室内飼育が可能である。一方で、ある程度成長した個体を海に吊るして飼育すると室内に比べてはるかに成熟の度合がよくなる(2週間程度、つるしておくと卵を持つようになる)。重要なファクタ−としては、以下のものが考えられる。

海水

プラスチック水槽に2.5Lの規模で、静水系で飼育している(循環はさせていない)。水換えは基本的には毎日行なった方が良いが、2-3日に一度程度でも耐えうる。水質維持は当然のことながら、微量に含まれている成分が成長&成熟に必要であるように思われる。現在、我々は循環系の飼育系の開発を試みている。

ホヤは、珪藻などを濾過して摂取している。常時、ホヤが摂餌出来るような状態が良い。このために、充分量の餌を与えると共に、飼育海水を循環させ常に珪藻が浮遊している状態が良いと思われる。

・温度

基本的には20℃で飼育している。もう少し水温が高い方が、速く成長するが水質が悪くなりやすい。また、初期発生における発生異常率を下げるためには、少し低めの温度(16−18℃)で発生させた方が良い。

・光

幼生時には、暗い状態の方が変態率が高い。また、成熟時には、光によって、配偶子を貯めさせることが出来、明暗条件の変化によって放卵・放精を誘発することも可能である。

・密度

特に室内飼育においては、密度は、成長の度合いに影響を及ぼす。妙にひょろ長くなっている場合は、餌の不足か過密である。また、同一容器内において成長の度合いに差が生じてきたら、過密であると考えた方がよいであろう。きちんと成熟させるのであれば、静水系の飼育において、一個体/2.5L 位の方がいいようである 。

継代飼育フロー・チャート(暫定版)

A.日々の世話(a.親の単離、b.稚ボヤ)

状態のチェック(調子、フンの有無、配偶子の有無 etc.を飼育記録する)

フン取り*1&ピペッティング*2(換水;3日に1度 or 水濁しているとき)

餌やり

後片付け(床掃除、バケツの水を換える etc.)&グラシリスの補充

*1;稚ボヤの死因の一つとして、自分の糞を再度吸い込んで糞詰まりになって死ぬ、ということがあげられる。
 糞取りは、水質の悪化を防ぐともに、このような意味があるので、大きめの糞だけでも取り除くようにする。
 洗ピンで海水を当ててあげるのが手軽で良い。
*2;そこにたまった餌の再利用。


B. 継代に関して

受精

個体の分散

ある程度育ってきたら、分散&間引き。

生殖巣が発達してきたら単離(目安は、輸精管にspermを持つかどうか。)

☆名称及び記録の付け方の一例

 系統を維持していくのに大切なことは、由来を常に明らかにすることである。そのために、系統毎に統一性のある名称をつけておくのは、系譜追跡に役立つ。初期の段階である程度きちんと決めておかないと、しばしば混乱を引き起こす。また、記録する項目としては、親がどの個体であったか、いつ受精をし、一世代どれくらいで回っているか、である。

例. F9*1-3*2-1*3-B1*4
*1; 世代を表す。"第9代目"ということ。
*2; 親の識別。子供を産んだ順番に親の識別をする。"子供を産んだ3番目の親"の意。
*3; 何腹目かの識別。同じ親が何回か子を生むことがある。"1腹目"の意。
*4; 水槽の識別。アルファベットで表す。分注したときに使用。最後の"1"は単離個体。

●問題点と改良の余地

・近交化による繁殖力の低下

 近交化することによって、繁殖力が落ち、本来、ホヤで利点であった多くの卵を体外で受精できるという利点が失われてしまう。これに関連して、継代飼育の難しさも、この動物を実験動物化するのにネックとなる点である。確実な飼育法・確実な自家受精法・Screening の方法等、開発すべき点はまだまだ多いと考えられる。

おまけ:カタユウレイボヤの採集