問題点と将来の展望

 実験動物としては、古い歴史を持ちながら、海産無脊椎動物における系統保存は今が黎明期であり課題も多く残されている。野外採集で得られた個体を用いて来た多くの研究者にとっては、室内飼育による個体の貧弱さに嘆くことが多いがそういうものである。用途を考えて使い分けるのがいいだろう。もっともメリット/デメリットを考えた場合、コストパフォーマンスに合わないのが現状でもあるが、突き詰めて考えると系統が無いことによって生ずる不都合も多い。

 海産ゆえに飼育に多量で好質の海水を必要とすることは、系統維持が現実的に可能な機関を臨海実験所などに限定してしまい、研究者参入の一つのネックになっている。そのため、系統維持にかかるコストを抑える飼育法の改良は今後も続ける必要がある。これに加えて、研究者・研究機関同士の連携*が今後ますます重要になるであろう。また、系統を扱うに当たっての基本的な育種学的手法に習熟した人があまりいないというのも現時点での問題となっている。黎明期ゆえに、あまりなされていない情報公開も今後整備していく必要があるだろう。

 しかし、最近カタユウレイボヤをはじめとして海産無脊椎動物を標準動物化しようというコンセンサスや系統保存の重要性の認識は確実に高まってきており、ゲノム・プロジェクトなどの大型のプロジェクトの進展*と相まって急激に展開しようとしている。それらの相乗効果によって、海産無脊椎動物が提供する生物学上の知見は更なる拡がりを見せることが期待される。

*発生学の材料として用いたい人間と、系統確立の為の育種に詳しい人間と、飼育に長けている人間とは、えてして別人である。発生学者が多い海産無脊椎動物の研究分野において系統保存の際の基礎的な理論や手法に関して習熟した研究者は少ない。
*アメリカのS. purpuratus は好例である。

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