ホヤ飼育における珪藻グラシリスに関して

グラシリスは、元々、ウニの幼生などの濾過摂餌プランクトンの餌として研究が進められてきた。変態直後より成体になるまでグラシリスで飼育することが可能である。単一のみの給餌は、ホヤの成長(特に成熟)にとって十分であるとは言い難いが、とりあえず成熟まで飼育できるのも事実である。

a. Chaetoceros gracillisの与え方

沈澱が生じている場合は廃棄する。餌やりにはカップを用い、一回与えるごとにバケツの中の水道水(汲み置き)で漱いでから次の水槽にうつる。与えるときには跳ねた水が両隣の水槽の中に入らないように注意する。

b. Ch. gracilis培養液の作り方(福島県水産試験場方式)

稚ボヤに対しては、海水の1/100-1/50程度を2-3日に1度給餌する。受精後3-4週間辺り(体長にして1cm程度)より、海水の1/50-3/50程度を毎日給餌する。5l作る場合には、濾過海水3l・水道水2l(60%海水)に対して、培養溶液A(溶液はピンク色)を100ml、培養溶液B(溶液は透明)を12.5mlずつ入れよく混ぜる(培養溶液の組成は下記参照)。海水のみでも培養は可能である。現在我々は、原種継代用に上記の方法を用い、給餌用には100%海水で培養したものを用いている(給餌による塩濃度の低下を避けるため)。

A液(使用量 12.5ml/L);遮光&冷蔵保存

@蒸留水1000ml
A硝酸ナトリウム10g
Bβ-グリセロ燐酸ナトリウム500mg
Cエチレンジアミン四酢酸ナトリウム鉄500mg
Dクレワット32 3g (帝国化学産業株式会社 06-531-8071)
EビタミンB12 10μg(耳かき1杯、適当)/遮光&冷蔵保存
Fトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン5g
蒸留水にAから順番にスターラーで撹拌しながら溶かし、塩酸でpH7.0に調整した後、75〜80度で滅菌して冷却遮光保存する(滅菌は省いても問題ない)。

B液(使用量 2.5ml/L);冷蔵保存

@蒸留水1000ml
Aケイ酸ナトリウム1.4g(水ガラスが溶かしやすいので便利)
硫酸でpH7.8に調整し、濾過後70〜80℃で滅菌して保存する(pH調製&滅菌は省いても問題ない)。

c. Ch. gracilisの植えつぎ方

gracilisのフラスコの中で1番繁殖しているものを選んで、ガーゼ(2、3重にする)で瀘して新しいフラスコに移す。培養液5lを新しいフラスコに同分量ずつ入れ、gracilis溶液を足してガーゼをし、照明下(60Wの電光灯)に置く。一定量以上に増えると沈澱を生じるのでそれ以前に植えつぐ。古くなったグラシリスは破棄し、新しい培養液に植え継ぐ。グラシリスの培養状態はホヤの栄養条件に大きく影響するので、ホヤ共々注意して培養する。急速な増殖を必要としない場合には、25℃くらい(28℃くらいまでO.K.だが、水が腐りやすくなる)の静地培養を行い、急いでいるときには同一条件下で軽く通気してやる(ガシャガシャとフラスコを振る)。光源は、切れてしまうことがあるので、複数用いておいて方が良い。周囲を反射板(段ボールにアルミを貼ったもので十分)で覆ってやると、光的に非常に効率がよい。
遠心して落としたタネは、冷蔵で1ケ月〜半年もつ。常時、植え継ぎをしないときには、1ケ月に一回ほど飢え継いでおくのが無難である。あまり、濃縮しすぎると腐りやすくなる(すごい臭くなるのですぐ分かる)。保存しておく容器には、2/3程度までの容量に抑えておき、気が向いたときに、カシャカシャ振ってあげると保ちが良いようである。

d. トラブル・シューティング

希に、いつまで経ってもグラシリスが増えてこないときがある。その時は、以下のような対策が考えられる。
・培養液(A液)を作り直す; 2ヶ月前のであれば、変えた方が無難である。
ビタミンの崩壊が原因であることが多いので、とりあえずビタミンを添加してみるとよい。

・光量を上げる;周囲を反射板で囲うとより効果的。また、蛍光灯だと育ちにくい傾向がある。

・水道水を変える;簡易浄水フィルター(活性炭)を通したら、急に増えるようになったことがある。

・振盪培養する;エアリングと同じ効果。

・ストックしてあったタネから新しく培養し直す。