カタユウレイボヤにおける系統保存

系統保存の現状

 現時点(2004.06)で、カタユウレイボヤにおける近交系もしくは系統は確立されていない。しかし、既に室内飼育や養殖が可能*であり、技術的には系統作成は出来るはずである。国内外であわせて3つのグループが発生遺伝学の系の開発を展開しており、今後、系統を確立していく必要性が高まって行くだろう。

*ただし、改良の余地はまだまだ大きく、変異体のスクリーニングのために大量飼育の系が求められている。

国内における現状

 国内におけるカタユウレイボヤの系統作成の基礎は、約15年前に日本の各研究機関の共同で行われた基礎研究によって築かれた[6]。我々は、この基礎研究を元にして、宮城県女川湾由来の1個体よりの系統作成を1998.3より開始した。継代は、光刺激により放卵・放精した配偶子の自家受精によりなされ、OG-Aと名付けられたこの系統は一年間でF5に至ったが、継代するにつれて繁殖力が衰え(近交弱勢が原因だと思われる)、死滅した。しかし、その継代過程で収拾した遺伝マーカーは、新たに系統を起こすための遺伝的な情報として使用が可能であり、今後はこれらを用いたより効率的な系統作成が可能になると考えられる。OG-A系統の遺伝的情報としては、野生集団との比較より得られた系統特異的な遺伝的分子マーカー(RAPDマーカーおよびSTSマーカー)がいくつか単離されている。また遺伝的モニタリングにより遺伝的均一化がかなり進んでいることが予備的に分かっている。またOG-A系統との交配をしたマッピング系統(TO4系統)が連鎖地図の作成に用いられた(非公開データ)。

 飼育系の安定は今後の遺伝学的解析の基礎となる。実際の飼育環境を整えるために、前述の基礎研究を元にして野生集団個体を使った実験によって餌の量や換水の頻度の設定、幼生が付着しやすい材質の選択、適正な飼育温度・飼育密度などをアッセイした。系統作成のためには飼育容器中への自然個体の混入を防ぐ必要があり、そのためには変態後しばらくは幼若個体を室内で飼育しなければならない。室内で育てた個体を海水中で飼育をすると成長および成熟の度合が良くなることから、餌の改良を中心に現在も引き続き模索が行われている(東京大学理学部附属・三崎臨海実験所の技官・関藤氏も、餌の開発を手がけている)。また、受精卵、胚、幼生などの冷凍保存法の開発も試みている。

 飼育設備に関しては、1998.3-1999.4の期間は、東京大学海洋研究所付属大槌臨海研究センター内の、恒温室(20℃) 、屋内飼育槽 (20 ℃)、屋外飼育槽を利用した。現在は、京都大学・研究室内及び農学部附属・舞鶴臨海実験所を併用して、新たに飼育系を構築中である(カタユウレイボヤの飼育法)。

国外における現状

 いずれも海が近いところでの研究室である。飼育系はいずれも開放系(海水を常に交換)を用いている

ナポリ臨海実験所(イタリア)

 ナポリ臨海実験所でも、カタユウレイボヤの継代飼育が行われていたが、スペース的な問題から現在はそれを保存していない。それのための飼育技術系を開発したとされているが、2000年以後、報告が途絶えている。既にENUによる突然変異誘起系による突然変異体作製を発表している。


カリフォルニア大学サンタバーバラ校(アメリカ)

 W. Smith博士らは、既に近縁種ユウレイボヤC. savignyiのENUによる突然変異誘起系、megenucleaseによるトランスジェニックラインの開発を発表している[10,12]。カタユウレイボヤでの飼育も可能であるようだ(中谷ら、私信、1999)。

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